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啄木のうた




詩の言葉をじゃぶじゃぶ浴びて、ぼおっとした、たら~んとした(これはこれで問題ありですが)わたしに、帰ろうと思うのです。

                            

石川 啄木のうた

1.1 秋立つは 水にかも似る洗はれて 思ひことごと新しくなる

1.2 浅草の 夜のにぎはひにまぎれ入り まぎれ出で来しさびしき心

1.3 浅草の 凌雲閣のいただきに 腕組みし日の長き日記(にき)かな

1.4 朝はやく 婚期を過ぎし妹の 恋文めける文(ふみ)を読めりけり

1.5 新しき インクのにほひ栓抜けば 餓ゑたる腹に沁(し)むがかなしも

1.6 新しき 本を買ひ来て読む夜半(よは)の そのたのしさも長くわすれぬ

1.7 あたらしき 心もとめて名も知らぬ 街など今日(けふ)もさまよひて来ぬ

1.8 あまりある 才を抱(いだ)きて妻のため おもひわづらふ友をかなしむ

1.9 あめつちに わが悲しみと月光と あまねき秋の夜となれりけり

1.10 雨降れば わが家の人誰も誰も 沈める顔す雨霽(は)れよかし

1.11 あらそひて いたく憎みて別れたる 友をなつかしく思ふ日も来ぬ

1.12 石をもて 追はるるごとくふるさとを 出でしかなしみ消ゆる時なし

1.13 いつか是非、出さんと思ふ本のこと、表紙のことなど、妻に語れる。

1.14 何処(いづく)やらむ かすかに虫のなくごとき こころ細さを今日もおぼゆる

1.15 いつしかに夏となれりけり。やみあがりの目にこころよき雨の明るさ

1.16 一隊の 兵を見送りてかなしかり 何ぞ彼等のうれひ無げなる

1.17 いつなりけむ 夢にふと聴きてうれしかりし その声もあはれ長く聴かざり

1.18 いのちなき 砂のかなしさよさらさらと 握れば指のあひだより落つ

1.19 今は亡き 姉の恋人のおとうとと なかよくせしをかなしと思ふ

1.20 薄れゆく 障子の日影そを見つつ こころいつしか暗くなりゆく

1.21 うっとりと本の挿絵(さしゑ)に眺め入り、煙草(たばこ)の煙吹きかけてみる。

1.22 縁先にまくら出させて、ひさしぶりに、ゆふべの空にしたしめるかな。

1.23 おそらくは 生涯妻をむかへじと わらひし友よ今もめとらず

1.24 己(おの)が名を ほのかに呼びて涙せし 十四の春にかへる術(すべ)なし

1.25 親と子と はなればなれの心もて 静かに対(むか)ふ気まづきや何(な)ぞ

1.26 鏡屋の 前に来てふと驚きぬ 見すぼらしげに歩むものかも

1.27 かくばかり 熱き涙は初恋の 日にもありきと泣く日またなし

1.28 かなしきは かの白玉(しらたま)のごとくなる 腕に残せしキスの痕(あと)かな

1.29 かなしきは 喉(のど)のかわきをこらへつつ 夜寒の夜具にちぢこまる時

1.30 かにかくに 渋民村は恋しかり おもひでの山おもひでの川

1.31 かの時に 言ひそびれたる大切の 言葉は今も胸にのこれど

1.32 君に似し 姿を街に見る時の こころ躍りをあはれと思へ

1.33 今日もまた胸に痛みあり。死ぬならば、ふるさとに行(ゆ)きて死なむと思ふ。

1.34 薬のむことを忘れて、ひさしぶりに、母に叱られしをうれしと思へる。

1.35 こころよき 疲れなるかな息もつかず 仕事をしたる後(のち)のこの疲れ

1.36 こころよく 春のねむりをむさぼれる 目にやはらかき庭の草かな

1.37 こころよく 我にはたらく仕事あれ それを仕遂げて死なむと思ふ

1.38 古文書(こもんじよ)の なかに見いでしよごれたる 吸取紙(すひとりがみ)をなつかしむかな

1.39 児を叱れば、泣いて、寝入りぬ。口すこしあけし寝顔にさはりてみるかな。

1.40 先んじて 恋のあまさとかなしさを 知りし我なり先んじて老ゆ

1.41 さりげなく 言ひし言葉はさりげなく 君も聴きつらむそれだけのこと

1.42 しっとりと なみだを吸へる砂の玉 なみだは重きものにしあるかな

1.43 死ぬまでに 一度会はむと言ひやらば 君もかすかにうなづくらむか

1.44 しらしらと 氷かがやき千鳥なく 釧路の海の冬の月かな

1.45 水晶の 玉をよろこびもてあそぶ わがこの心何(なに)の心ぞ

1.46 すこやかに、背丈のびゆく子を見つつ、われの日毎にさびしきは何(な)ぞ。

1.47 すずしげに 飾り立てたる硝子屋(ガラスや)の 前にながめし夏の夜の月

1.48 砂山の 砂に腹這ひ初恋の いたみを遠くおもひ出づる日

1.49 寂莫(せきばく)を 敵とし友とし雪のなかに 長き一生を送る人もあり

1.50 そのかみの 愛読の書よ大方は 今は流行(はや)らずなりにけるかな

1.51 大海に むかひて一人七八日 泣きなむとすと家を出でにき

1.52 大という 字を百あまり砂に書き 死ぬことをやめて帰り来れり

1.53 ダイナモの 重き唸(うな)りのここちよさよ あはれこのごとく物を言はまし

1.54 高きより 飛びおりるごとき心もて この一生を終るすべなきか

1.55 ただひとり 泣かまほしさに来て寝たる 宿屋の夜具のこころよさかな

1.56 ただ一人のをとこの子なる我はかく育てり。父母もかなしかるらむ。

1.57 たはむれに 母を背負ひてそのあまり 軽(かろ)きに泣きて三歩あゆまず

1.58 茶まで断ちて、わが平復を祈りたまふ母の今日また何か怒れる。

1.59 ぢりぢりと、蝋燭(らふそく)の燃えつくるごとく、夜となりたる大晦日かな。

1.60 つくづくと 手をながめつつおもひ出でぬ キスが上手の女なりしが

1.61 東海の 小島の磯の白砂に われ泣きぬれて蟹とたはむる

1.62 遠くより 笛の音きこゆうなだれて ある故やらむなみだ流るる

1.63 時ありて 子供のやうにたはむれす 恋ある人のなさぬ業(わざ)かな

1.64 何処(どこ)やらに 若き女の死ぬごとき 悩ましさあり春の霙(みぞれ)降る

1.65 友がみな われよりえらく見ゆる日よ 花を買ひ来て妻としたしむ

1.66 何もかも 行末の事みゆるごとき このかなしみは拭(ぬぐ)ひあへずも

1.67 寝つつ読む本の重さにつかれたる手を休めては、物を思へり。

1.68 はたらけど はたらけど猶(なほ)わが生活(くらし) 楽にならざりぢっと手を見る

1.69 放たれし 女のごときかなしみを よわき男の感ずる日なり

1.70 春の街 見よげに書ける女名(をんなな)の 門札(かどふだ)などを読みありくかな

1.71 春の雪みだれて降るを熱のある目にかなしくも眺め入りたる。

1.72 ひでり雨 さらさら落ちて前栽(せんざい)の 萩のすこしく乱れたるかな

1.73 ひと塊(くれ)の 土に涎し泣く母の 肖顔(にがほ)つくりぬかなしくもあるか

1.74 病院に来て、妻や子をいつくしむまことの我にかへりけるかな。

1.75 二三(ふたみ)こゑ いまはのきはに微かにも 泣きしといふになみだ誘はる

1.76 ふるさとの 空遠みかも高き屋(や)に ひとりのぼりて愁(うれ)ひて下くだる

1.77 ふるさとの 父の咳する度たびに斯(か)く 咳の出づるや病めばはかなし

1.78 ふるさとの 訛(なまり)なつかし停車場の 人ごみの中にそを聴きにゆく

1.79 ふるさとの 麦のかをりを懐かしむ 女の眉にこころひかれき

1.80 ふるさとの 山に向ひて言ふことなし ふるさとの山はありがたきかな

1.81 ふるさとを出いでて五年(いつとせ)、病をえて、かの閑古鳥を夢にきけるかな。

1.82 燈影(ほかげ)なき 室(しつ)に我あり父と母 壁のなかより杖つきて出いづ

1.83 ほとばしる 喞筒(ポンプ)の水の心地よさよ しばしは若きこころもて見る

1.84 頬につたふ なみだのごはず一握の 砂を示しし人を忘れず

1.85 まくら辺に子を坐らせて、まじまじとその顔を見れば、逃げてゆきしかな。

1.86 水潦(みづたまり) 暮れゆく空とくれなゐの 紐を浮べぬ秋雨の後(のち)

1.87 胸いたむ日のかなしみも、かをりよき煙草の如(ごと)く、棄てがたきかな。

1.88 目になれし 山にはあれど秋来れば 神や住まむとかしこみて見る

1.89 ものなべて うらはかなげに暮れゆきぬ とりあつめたる悲しみの日は

1.90 やはらかに 積れる雪に熱てる頬を 埋づむるごとき恋してみたし

1.91 やはらかに 柳あをめる北上の 岸辺目に見ゆ泣けとごとくに

1.92 山の子の 山を思ふがごとくにも かなしき時は君を思へり

1.93 夢さめて ふっと悲しむわが眠り 昔のごとく安からぬかな

1.94 よりそひて 深夜の雪の中に立つ 女の右手(めて)のあたたかさかな

1.95 わが恋を はじめて友にうち明けし 夜のことなど思ひ出づる日

1.96 わがこころ けふもひそかに泣かむとす 友みな己(おの)が道をあゆめり

1.97 わが妻の むかしの願ひ音楽の ことにかかりき今はうたはず

1.98 わが庭の 白き躑躅(つつじ)を薄月の 夜に折りゆきしことな忘れそ

1.99 わかれ来て 年を重ねて年ごとに 恋しくなれる君にしあるかな

1.100 わかれ来て ふと瞬(またた)けばゆくりなく つめたきものの頬をつたへり

1.101 わかれをれば 妹(いもと)いとしも赤き緒(を)の 下駄など欲しとわめく子なりし





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コメント

おはようございます

15歳の初恋真っ只中の私に
恋と憂を教えてくれたのは
啄木でした(笑)

不来方のお城の草に寝ころびて空に吸はれし十五の心

青空に消えゆく煙さびしくも消えゆく煙われに似しかな

かなしみといわばいふべき物の味我の嘗めしはあまりに早かり

Nちゃん

啄木101首!

KUON様、

あ、知ってる、という有名な句が5首か6首ほどありました。
あとは、初めての句ばかりで、新鮮でした。

涙って重いんだね、
大の字を書いたのね、とか思いつつ。

情景を描くと、心が映せるのか、と感じたり。

教科書に載っていた啄木の写真が思い出されて、
邪魔~、違和感~、と頭振りながら、全句、音読しました。

楽しかったです。
ありがとうございました。

・Nちゃん さん

私の母が啄木を好きだったのです。世間知らずの嬢ちゃん気質、ええもん好きだったのに、なんでか貧乏のこびりついたイメージのかの歌人が好きで。

ペン書きの自筆の全歌集、作って持っていた(笑)。それを読んで私は入って行ったのでした。一緒に映画見たことはたった一度。それが啄木ので(笑)。

本郷功二郎が演じていて、子ども心に、これはイメージ違うやろと思っていた(笑)。

いま読むと、やはりすごい人だったんだと改めて驚愕します。さらっと書いているのに、完成度の高いこと。歌手のオザキといい、20代のうちに全部出して、早いこと死んでしまったのか。

いま表記が正しいか自信ありませんが、掲出歌の他に

「船に酔ひてやさしくなれる妹の目見ゆ津軽の海を思へば」

この一首好き。妹さんには最高のお兄ちゃんだったんですね。

妹さんは長生きされて、兄のことをずっと思い続けておられた。妹さんも、故郷の渋民村へは帰れないままだった。

「石をもて追はるるごとくふるさとを出でし悲しみ消ゆることなし」

兄がそう詠んだ、ふるさとへ。


・アルジェリマンさん


ご存じなかったうたも沢山あって、新鮮に読んで下さったと。嬉しいです。

けっこうセンチな兄ちゃんで。よく泣いていますね、うたで。でもとっても魅力ありますね、うたは。なんか喧嘩売ってるみたいな書き方になりましたか(笑)。

音読されたのは、エラソーに言えば、大正解~ですよね。

俳句もそうでしょうが、短歌は特に、声に出して読むと、意味もリズムもたいへんよくわかる。

教科書によくある、あの写真、違和感~ですか。ほとんど写真は残っていないのですよね。時代が時代でもあったし。二十歳と少しで、貧しい中死んでしまったのですし。

ご存じでしょうか、作家の群ようこさんは、あの啄木と、あの芥川と、あと誰だったか。顔がいいから読んだと書いておられました。作家にしては、ですが。私は・・・アルジェリマンさんと同じ派、ですかしらん(笑)。






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・・・・・


としどしに わがかなしみは ふかくして 

いよよはなやぐ いのちなりけり


      岡本かの子

             


・・・・・・・・・・・・・・・


やはり赤い口紅が好き。


ものすごく唐突ですが、私、口紅(だけ)はシャネルよ。(笑)。

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