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  1. くおんの万葉集
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恋の奴のつかみかかりて

穂積皇子(ほづみのみこ)。

673年くらいの生まれとされる。天武天皇の皇子。5番目。

母親の名や出自などを書いていると、この時代のこと大変ややこしいので(書く時には書きます!)今は、前記事の但馬皇女との関わりだけを追って行きます。

穂積皇子は、二十代の頃に、天武の第一皇子である高市皇子(たけちのみこ)の妻である但馬皇女と恋に落ち・・・歴史の上では「密通」とされた・・・その同じころに、勅命によって、近江志賀寺に派遣されました。

勅命とは、天皇の命令。逆らうことはできません。

二人の仲は堰かれてしまいました。但馬皇女のその後はどうだったのか、708年に亡くなったことだけが知られています。三十代での死だったでしょうか。

穂積皇子の方は、順調に出世を重ねました。

万葉集中の女流歌人としていちばん沢山の長歌、短歌、旋頭歌を詠み=計84首、編纂者の大伴家持の叔母でもあって実力もあった、とてもユニークなうたも遺している「大伴坂上郎女(おおとものさかのうえのいらつめ)の、初めの結婚相手でもありました。

少女そのまま、13歳で嫁いで来た彼女を、穂積皇子は大切にしたのです。

何人もの子をなし(正妃が誰であったかは不明)、孫の広河女王も万葉集に歌を載せている、社会的には、元日朝賀に「一品」に叙せられる、そんな人生を、穂積は歩んだ。

この穂積が。但馬の死して後に、その年の暮れ、冬の日に(いま書いているのと季節が合わなくて辛いですが)、昔の恋人の墓のある方をうち眺めて詠んだうた。

「悲傷流涕(ひしょうりゅうてい)して作らす歌一首、とあります。

悲傷流涕。身悶えて悲しみ、涙を流して。うたを詠んだ。

降る雪はあはにな降りそ吉隠の猪養の岡の寒からまくに

  ふるゆきは あはになふりそ よなばりの ゐかひのおかの さむからまくに


雪が、しんしんと降って降り積もって、見ているに堪えがたかったのか。

思わず心情が溢れ出たのか。

そんなたくさん降らないでくれ、雪、たくさん降らないでやってくれ、積もらないでくれ、吉隠の岡の墓の下に眠るあの人が、寒いだろうから。寒くてたまらないだろうから。

このときの穂積は、どっしりとした中年。出世の道に影もささない実力者です。

はじめて但馬皇女とまみえた時には、若く、皇子といえども周囲の目を気にし、気遣って生きる若者だった。

年を経ていま、その頬の顎の髭は硬くなり、眉間にもきびしい縦じわがある。。

・・・但馬を、一人で死なせてしまった。

まだ柔らかかった自分の頬に、ふるふると指を伸ばして来て触れた、嬉しそうに眉をひらいて笑った、あの、但馬を。

供さえ連れず。ひたに自分に会うために、経験したことの無い朝川を渡るということをなした女だった。必死だった一途だった、いっしょけんめいに、まっすぐにがむしゃらに、つんのめるように自分に向かって来た女だった、眩しかった愛おしかった、あの時。自分だってそうだった、あの日のことは忘れない、そして忘れないまま死んだのであろう、あの。いとしい但馬。

穂積皇子はまた、

家にありし櫃に鑠さし蔵めてし恋の奴のつかみかかりて

  いえにありし ひつにかぎさし をさめてし こひのやっこの つかみかかりて


このようなうたも詠んでいます。

四十二歳で薨じた穂積皇子が、晩年、宴の席で酔うと口ずさんだうた。 必ず口ずさんだといわれます。

家にあった櫃。頑丈な櫃に、押し込めて鍵をかけて抑え込んだのに。

その恋の奴が、呼びもしないのに現れ出て来て。

つかみかかるのだ、私に、この穂積に、どうしようもない恋の、奴というやつが、さ。

・・・・・・他の説もありますが。

私は、穂積を苦しめた(のか?)この、恋の奴の本体は、但馬皇女と思いたい、思っています。




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  1. 2017.07.14 (金) 11:17
  2. URL
  3. tibineko
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情景

はるか昔、漫画家になりたいと本気で思っていたことがあります。
身のほどを知って、いつしか揃えた用具も奥に仕舞いこまれました。

前置きが長くなって申し訳ありませんm(__)m
今回のkuon様の記事を読んでいると
頭の中にそれぞれの人物の、その時々の姿が
長編漫画の一コマ一コマになって浮かんで来ました。
一つ一つの描写が、想像力をかきたててくれます。
有難う御座いました m(__)m

  1. 2017.07.14 (金) 13:37
  2. URL
  3. lavinia
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セクシービームだ。

KUONさま こんにちは。

すごいですね、穂積皇子の歌。

家にありし櫃に鑠さし蔵めてし恋の奴のつかみかかりて

こんな歌を送られたら、一発で恋に落ちますよ。
ストレートで、「狙ってる」感がないですし。
但馬皇女が川を渡ってまで遭いに行くのもわかります。
素直な良い男だったんでしょうね、恋に関しては。

脳内で、穂積皇子を竹野内豊に変換して楽しんでしまいました。

  1. 2017.07.15 (土) 21:03
  2. URL
  3. KUON
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・tibinekoさん

漫画家になりたい夢をお持ちでしたか。

愛おしいですね、その、tibinekoさんの夢。

若い日の、強かったであろう、そして叶わずに潰えてしまった夢。

見えるように書く。それが、ものを書く者の基本姿勢だと思います。そう思っているから、一コマ一コマが見えて、と仰って下さるのは、とても嬉しいことです。

私はもう、野望を持たない人間となっていますが、できれば自分の作品をていねいにつくって行きたい、焦らない、言葉を大切にしたいと願っています。

もう、描かれないのですか。

違う形ででも・・・と、ふと、思ってしまいました。

ありがとうございます。


・laviniaさん


そうなんですよ。万葉集の中の人びとって、とてもセクシーだったりするんです。

個として立っていて、正直で、自らの負の部分もきちんと見られる。そういう人ってセクシーですよね。

もっともっといっぱい、魅力的な人々がいるのが、万葉集の世界です。

男だって泣く、女だって走って行ってしまう。

できるだけ色んなうたを、紹介させていただきたいです。

竹野内さん。なるほど。

私は・・・三年くらい前に限定して、鈴木亮平がよかったかな・・・今の彼ではないです、それか、10年以上前の、高橋克典。みなさん勝手に、私のツボから外れて行ってしまう。あ、違って来たな、と気づいたら、追いかけないのです(笑)。

いろんな男性がよりどりみどりの、万葉集。(笑)。


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プロフィール

KUONの久遠

Author:KUONの久遠
     ・・・・・・・・・・・・・・

四十年以上住み慣れた奈良の地を離れ、海の近くへ越してまいりました。

海の見ゆる高層の部屋に耳遠き
夫(つま)とふたりの暮らし始むる

明確に、残生を意識します。余分なあれこれはもう要りません。
シャネルの赤いルージュは変わらず。生意気なままの私でいたい、いようと願っております。

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