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ブログタイトル変えました。中身は変わらずKUONです。

雪の小話。




夕方から雪が降り始めた。クリスマス・イブの雪。

空気が洗われてイルミネーションの色が透明さを増し、頬はきりきりと冷たくなって、恋人たちの吐く息はほわほわと柔らかそうに白い。うつむいて胸を抱えて歩く女の息が細く長かった。

男たちは群れていた、腕を振り回し酒を飲みに行こうと明るかった、街はどこもはしゃいでいた。

3丁目の角で陶子は車を降ろしてもらった。運転席の男は不足そうな息を洩らしたが、去り際には笑顔を作って手を振ってみせる、性格のいい男ではあった。

陶子は性格のいい男が苦手だった。

優しい男は信用できない。話のうまい男は目つきが油断ならない。朗らかな男は疲れる。

買ったばかりのブーツの底が、雪で湿った舗道をしっかりと踏みしめる感覚に救われる気がして、予約を入れておいたイタリアンの店へ向かった。

イブの夜の一人客でも、店は、街の夜景の美しいあたりの窓際を陶子のために用意してくれていた。

初めてのクリスマス・ディトのカップルが、ため息ついて喜びそうな窓際の席は、さりげなくはあっても店の側の特別な配慮によって案内されるもの。

誰かと一緒の時は、気づかないふりをしてその席を楽しもうとする陶子だが。今夜は一人、食べる時は自分の指先だけを見ている夜。

壁に添って座ることにした。

注文を済ませて目をやってみれば、若い・・・陶子と同じくらいのとしごろ、おそらく学生同士。彼は彼女に、精いっぱいのイブの夜の晩餐を供したかった、おそらく。

彼女は、涙ぐんだりして相手に感謝する、いい夜だ、素敵な夜だ、今宵をそうして特別なものにできる人間たちは、楽しめばいいのだ。

透明の酒を飲む。ふわっと一瞬、こめかみのあたりで血が騒ぐ。酒はそれでおしまい。

酔っ払ってしまうなんて。酔って自分を失うなんて。そんな恐ろしいことを、どうして平気でできるだろう。

自分の知らない自分を、他人に晒すなど。怖くはないのか。

号泣してしまうかもしれないのに。

とんでもなくしがみついて、知らない誰かの肩や胸を、汚して泣きじゃくってしまうかもしれないのに。

酔うなんてできない。自分には無理だ。と、陶子は思う。

ピザが来る。

ベーコン。アンチョビ。キノコ。この店のピザは美味しい、このピザしか食べたくない。

3年ほども前には、このような芳醇な食べ物が存在することさえ、知らなかった。

家を出て東京へ来て、陶子を取り合う編集者たちにちやほやされて。年端も行かない若い未熟な女でも彼らは、先生と呼んで、接待をする。競うように、新しくできる洒落た店へ伴ってくれる。

そうして大層な店に足を踏み入れるようになって、

そんなことにたちまち、傲慢に、慣れて。

バラライカのボルシチ。キャンティのパスタ。あの老舗の、折れ曲げて重ねられた鰻。あっという間に慣れて。

今夜は、この店のピザが食べたかった。

濃厚なチーズがふつふつとまだ、台の中央で滾っている。大きな一切れを指でつまんで、顔ごと迎えに行くように、とろけて既に崩れかけている先端に歯を当てる、口に含む。チーズがねっとりと糸を引く。

秋生。

いつだって突然だ、会いたくなる。

いつも会いたい、会いたくない時なんかない、でも会えない。

秋生。

性格はどうだったか優しかったかどうか、あまり話さなかった、出会って秋生が消えるまで半月、二か月、いや半年もあったのか、そんなにあったのか、秋生といた日々は。

喋るよりはぴったりくっついて、目を閉じて、相手の呼吸の音や心臓の音や欲望の匂いや満足した後の声や。そんなものを貪っていた。

秋生から出る言葉のすべて秋生の動作のすべてに陶子は反応した、ぜんぶ、聞きたい言葉だった、もっと聞きたかった、感じたかった、からだごと吸い付くように好きだった、秋生。

会えない。もういない、秋生。

顔なじみのウェイターが水をサーブしに来た。

黑い髪を撫で上げていて、眉が濃くて。きれいな顔をしている。

可愛い恋人と歩いているのを見かけたことがある。小柄な女の子は、顔中を笑った口の形にして、長身のカレにからみつくように歩いていた。足がもつれて転びかけて、支えられて喜んで、弾けるみたいに幸せそうだった。

あの可愛い恋人のためにこの男は、イブの夜も仕事をしている。

恋人は、待っている、じりじりしながら、待つ時間をさえ恋のスパイスにしている。

秋生。

秋生のためだけに生きる女には、なれなかった。陶子は思う。

とろけるくらい、あのからだの中に沈み込んで行きたいくらい、好きだった、けど、秋生。

恋の時期がどうしても終わってしまって。一緒にいるのが当たり前になって行って。それで幸せになったと、感じたかもしれなくても。

秋生のことだけを考えては生きられないと。

すでに最後のあたりでは、そんな予感を抱いていた。

いま。

秋生がいなくなって。

焦げてしまうほど、恋しい。会いたい。あの鎖骨の窪みに鼻先をこじ入れて。

秋生秋生秋生。名前を呼んでみたい。

・・・つまりピザは、食べてしまった。デミタス珈琲も底まで飲んだ。

陶子は立ち上がり。支払いをする。

秋生と来た、あの夜にも、支払いは陶子がした。

秋生は、しばらく並んで無言で歩いてから、走って行って息を切らせて戻って。

コーラの缶を渡してくれたのだった。

すごく美味しかった、ありがとう、俺も今度、連れて行ってあげる、好きなものの店に。

嬉しかったのだ、陶子は。

指切りなんか、したのだった、恋人同士みたいに。

そして秋生は、死んでしまった。

あっけなかった、あっという間に、死んだ、秋生。

陶子はそして生きていて、何も無かったように仕事をして、時々、泣いている。

風呂場で。お茶漬けを食べながら。編集者と打ち合わせしながら、テレビを観ながら、映画館を出て歩きはじめる時に。

涙は不意に襲いかかって、しかし陶子は知っている。

泣く時は一人、泣く時も一人。

酒はグラスに一杯だけ、寝る時は一人、雪が冷たいので、自分のてのひらで自分の頬を拭ってやりながら。

いきなり泣きながら、一人。

この夜の雪は、明日の朝には溶けてしまうのだろうか。

新しい失恋をした誰かが、溶けて凍った舗道の上、うつむいて、とぼとぼと歩いたり、するのだろうか。







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涙がぽろり…

私も大好きだった男の人に先立たれました

「俺の子供を産んでくれ」
と出逢ってすぐに言われましたが、そういう関係になるまで三年待ちました

彼には女が何人かいたので、本気だったら全部切ってからおいで、と話していましたから

でも実際に子供は出来ませんでした

彼は抗がん剤を使ったり、放射線治療もしていて、もうどうしようもない状態でした

もっと早く受け入れていたら、彼の子供ができていたのかも知れませんが、ボロボロになっても私を選んで帰って来てくれたことが嬉しかったのです

彼が亡くなって、何時間も経ってから触れた頬

お通夜の帰りの地下鉄のホームの空気と匂い

すべて冬で氷のように冷たくなっていましたが、その温度はまだ身体中で覚えています

冬場は地下鉄に乗れません
フラッシュバックして気が狂いそうになるのです

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温かいコーヒー飲みたくなる話ですね。陶子…私が女の子を産んだら付けたかった名前、字は違うのですが『瞳子』叶わぬ夢でしたけど、読んでドキッとしました(笑)KUONさんの世界、大好きです。

KUONさま、せつないです、そして、きくさまも。
こんな綺麗な絵画のような世界は無骨な自分とは無縁。
それでもあまりに美しい、と思いました。
胸が締め付けられました。。。。

ヒミツのHさん。

本来、この世界の住人で。

作り話と言えばそうなのですが、こっちの方が思う存分、自由に書けます。

もてなかった自分も、めっちゃカコオエエおんなになれる。

とか、ふざけたみたいなお返事にしておきましょう。

恋物語を書けるのは、今から。そんな気がします。

了解。オーケー。

きく さん。

そうね。

からだと、こころが、覚えていますね。

・・・・・。

辛い恋でも、無かったよりいい。私はそう、考えています。

ヒミツのSさん。

そう、家族がいますね、若い死の周囲には。

電話して受け止めてくれる人がいるのは、救い。受け止め得た方にも、ある意味、救い。

人は、人の役に立ちたい気持ちってあるから。

「秋生」の家族の「物語」も私のアタマの中にはありましてね。

なぜかそれは、夏。セミがわんわん鳴いていて、だから、しーんと、海の底のような静寂の中での、もう一つの別れがある。

そういう世界が、アタマのなかで、暴れはじめている気がします。

ぽちゃこ さん。
ぽちゃこさんに似た、真っ黒なつぶらなお目目の、小さい「瞳子ちゃん」が欲しかったのですか。
可愛い女の子でしょうね。
私も、生まれなかった子は男の子だったと思い込んでいて、その子には名前もあるのです。私より背が高くて、黒い髪の指の長い子だったと、勝手に想像していた。どんな子だとも、自分で決め放題だから、現実の誰も、幻の息子には適わない。(笑)。

蛙さん。

>こんな綺麗な絵画のような世界は無骨な自分とは無縁。

いやいや。書いている本人は、きりっと切れ長、陶器のような肌の「陶子」サンとは全くのベツモノで。がさつでぶこつで、ぼーっとしておりますの。

書くことは楽しい、面白い。でも昔から、私の「作品」が好きと仰って下さる方に会う機会があったりすると、著しく「がっかり」を与えるみたいで。ホンマに、目に、ガッカリってペンキで書いたシャッターが下りるの。

あまり現実の出会いは無い方がいいだろうと考えて来ましたが、開き直って去年は二回も、ブログの読者さんかたに、お会いしてしまいました。

夢は夢、でいいのかも。私はでも、夢も現実も、両方大事、両方欲しい。(笑)。

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やはり赤い口紅が好き。


ものすごく唐突ですが、私、口紅(だけ)はシャネルよ。(笑)。

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